2010年05月07日

【国籍法】DNA鑑定の義務を改正案に書けない3つの理由(2008年11月)

以下のリンク先は、2008年11月24日に、本館『自由帳で数学とか物理とか』にアップされたものです。


いつまでたっても「DNA鑑定を義務付けろ」という人がいるので、これについてもまとめさせていただきます。
本日は、「国籍法改正案にDNA鑑定が書けない理由」についてです。


理由1.情報の自己決定権に関する問題

DNAとは、その個人が持っている遺伝子の情報と思ってくれていいです(ここは生物の講義じゃないので)。ここで重要なのは、「個人が持っている」ということ。よって、犯罪捜査でもない限り、強制的に個人が持っているものを検閲することはできません(ちょっと用語がおかしいですが)。
つまり、DNA鑑定をしようにも、本人の同意がなければその鑑定結果は使えないのです。
これは、「当該の子または代理人の承諾なしに行われたDNA鑑定は、子の有する情報の自己決定権を侵害するもので、その結果を嫡出否認の裁判手続きにおいて証拠として用いることはできない」からです。
……えー、もう少しわかりやすく書きますと、不当な手段で手に入れた証拠は裁判で証拠にならないということです。少し前に環境保護団体グリーンピースが、運送会社の倉庫から鯨肉を盗んで横領の証拠と騒いだことがありますが、盗品は証拠にならなかったですよね?
あれと同じ理屈です。

本人またはその代理人(大抵は親)の同意がなければ、DNA鑑定をやっても証拠にならないのです。
ここで、偽装認知する人の立場で考えてみましょう。
偽装認知しようとしているわけですから、DNA鑑定で親ではないことはわかるとします。ですがここで問題が発生します。DNA鑑定を拒否した場合、どうなるかです。
DNA鑑定を拒否した場合、無理やり鑑定しても証拠にはなりません。よって、DNA鑑定は行われることなく、手続きはストップします。
しかし、今回の最高裁判決から、婚姻関係の有無と認知の時期だけで不利益を被らせるのは差別に当たりますから、結局DNA鑑定してもしなくても受理しないといけなくなります(受理しないと国が裁判で負けて賠償金を支払う必要あり)。

……まぁ、DNA鑑定をつけたら、かえってザル法になるんです、これ。



理由2.法体系からの問題

この話はこちらのエントリで詳しくやったので、今回はさわりだけで。
法体系の図をもう一度引用します。
20081120233337.png広い意味での「法律」というのは、こういう姿をしています。
上のものは下のものへの拘束力がある……つまり、下にあるものは上にあるものに反することを決めることはできません。憲法が一番上にあることから、憲法の最高法規制が見て取れます。
上にあるものはものすごく拘束力が強いので、変えるための手続きが難しくなっています。
法律は国会でしか決められませんし、憲法は国民投票まで必要です。
よって、細かく具体的な運用に関することは極力下の方にあるもので書かれるようになっているのです

DNA鑑定は具体的な運用に関する事柄です。
よって、これを定めるには外枠を決めるだけの「法律」では大きすぎ、不適切です。こういうのは省令や訓令で定めるものなのです。
以上により、法体系から見てDNA鑑定を「法律」に書くのはおかしいという話になります。



理由3.法の下の平等に関する問題

今の国籍法で国籍が付与されないのは、両親の国籍と認知の時期、婚姻関係の有無から見てわずか1パターンのみです。
20081118002827.gif改正国籍法にDNA鑑定をつけたとして、このパターンのみにDNA鑑定の義務を負わせるのは、また「法の下の平等」に反しているといわれて違憲とされるのは目に見えています
ですが、他のパターンもと言い出すと、日本人同士の子供にまでDNA鑑定を義務付けなければならなくなります。もし、日本人同士のみ鑑定が要らないのでしたら、また「法の下の平等」に反するとされて(以下略)です
しかし、ここで「法の下の平等」は日本国民だけの権利であり、無国籍児はその範疇にないと反論する人がいます。
ですが、昭和53年10月4日最高裁判決(マクリーン訴訟)により、「権利の性質上、日本国民のみを対象とするものを除き、在留中の外国人にも、等しく及ぶ」と解釈されているのです。
これにより、外国人に対しても同じ「法の下の平等」という概念を持ち出すことが出来るのです。
(なお、入国の自由など、権利の性質上日本国民のみを対象とする人権は認められません)



これら3つの理由すべてにおいて、DNA鑑定を法律に組み込むことが実際にできないことがわかると思います。


【参考】
コメント欄より

記事に挙げられた理由以外にも、国籍法にDNA鑑定の義務を課せない理由として、公的な機関がDNA鑑定を行っていないことことが挙げられます。
現在DNA鑑定を行っているのは民間企業のみであり、DNA鑑定を要件に加えるということは国籍の付与が民間企業の判断によって左右されることになります。悪質な業者による安価で低品質なDNA鑑定や、偽鑑定結果の氾濫を招きかねません。

2008-11-26 へたれ法学部生


2008年11月14日 衆議院法務委員会にて 法務省民事局長の見解

それからDNA鑑定の話がございました。
偽装認知のためにDNA鑑定すべきじゃないかと、これもよく分かる議論なんですが、
実は議員の皆様方ご承知と思いますが、日本の民法の親子関係を決める手続きと言うのは認知で決まる。
そのときにDNA鑑定を出せなんていうことは言わないわけでございます。
ここに家族の情愛で自分の子供だと認知したと言うのだったら、それでとりあえずの手続きを進めて、
後でおかしなことがあったら親子関係不存在とかそういうのでひっくり返していく。
あるいは嫡出否認なんかでひっくり返していくと。こういう法制度。これが日本の独特の制度でございます。
それを踏まえますとDNA鑑定を最初の認知の段階で持ち込むことになりますと、
やはり親子関係法制全体に大きな影響を及ぼすなど、これを私どもとしては考えざるを得ません。

更にいくつか問題はございまして、一つはDNA鑑定で一番難しいのはですね、検体のすり替えが無いかということであります。
すり返られた検体で来られたらみんな騙されてしまいますから。
それから、現在の科学技術水準に合ったきちんとした鑑定が出来ているか、そこを判断しなければなりません。
しかしその判断を迫られるのは最初の認知届を出される市区町村の窓口。
あるいはこの国籍取得届を出される法務局であります。
そういうところでそんな判断はできないという、ここが大きな問題で一つございます。
それから鑑定には相当の費用がかかります。
そうするとこの費用の負担能力の無い人にはどうしても手立てが無い。
それから外国国籍の子を認知する機会の無いDNA鑑定を義務付けるとすれば、それは外国人に対する不当な差別ではないかと、こう言われる可能性もあるということで、DNA鑑定の採用については消極に考えております。


コメント欄より

[C1005] 町田
欧州では移民家族の呼び寄せや入国にDNA鑑定を導入している国は多いけどDNA鑑定を必須としてる国は一つもないんだよ。欧州各国で採用されてるのは、身元確認が困難な場合に本人の希望により任意で受けることの出来るDNA鑑定か、受けることにより手続きや審査の一部が免除されるタイプのこれまた任意のDNA鑑定あとは偽装の疑いがある時に司法の許可を得て検察行政が行うDNA鑑定だけ何れも複数の条件を満たし場合のみ許可されてるだけだよ 。
2008-11-28

posted by 久間知毅 at 03:49| 国籍法改正案 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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