2010年05月07日

【国籍法改正】法律は細かいことまで書いてない(2008年11月)

以下のリンク先は、2008年11月21日に、本館『自由帳で数学とか物理とか』にアップされたものです。


国籍法改正に関することで、少々書かせていただきます。
内容や改正の意義についてはすでにあるエントリを参照ください。

さて、なにやら「認知に関する偽装が云々」や「事細かに全部書けば安心する」、「DNA鑑定が書かれない限りダメ」という意見を言う人がいたので、法体系というものをご説明させていただきます。
なにぶん、私は電気工学科に在籍していますので、説明に使う例や用語が工学に偏っているかもしれませんが、そのあたりは脳内補完でよろしくお願いします。


まず、法律がどのような位置づけであるかを把握していただくために、法体系の図をご覧ください。

20081120233337.png

下位のモノは上位のモノに反することを定めることは出来ません。そこで、一番上に憲法があることから、憲法が最高法規であることがわかるかと思います。

さて、この法体系から「上位のモノほど改正手続きが難しい」ということが見て取れると思います。
よって、細かい規則や具体的な運用方法については極力下位のモノで、ある程度の範囲を示して、あまり変える必要のないものを上位にするようにされています。

例えば、電気事業法を例にとって見てみましょう。

電気事業法とは電気を使って何か事業することに対する法律ですので、電気工作物とは何かという事柄から具体的な電圧の値まで、基準を定める必要があるはずです。
ですが、電気事業法には、コンセントに送る電圧を何Vにするとか、電線を張るときに何m地上から離すとか、過電流遮断器の設置場所はどうするかとか、具体的な事柄は全く書かれていません

これでは、電力会社が好き勝手やって、消費者に多大な迷惑がかかってもおかしくありません!!
電気の事故が続発し、感電死する国民が出てきて、さらに火災が発生して日本中火の海です!!
ああ、なんて危険な電気事業法!! これは悪魔の法律だ!!!!



……なんてことにはならないんです。
ここに、電気事業法に関連するあたりの法体系を書いてみます。

電気事業法

電気事業法には、政令として施行令、経済産業省令として施行規則がくっついてくるのです。
そして、これは他の法律とも兼ねあいありますが、経済産業省令「電気設備に関する技術基準を定める省令」(通称:技術基準)もついてきます。
上で挙げた例にあるような設備に関する内容は、この「技術基準」に書かれているのです。

ですが……この技術基準には「人体に危害を及ぼしたり物件に損傷を与えないように施設しなければならない」など抽象的な表現のものばかりで、定義を除く具体的な数値をもとに制限している箇所は低圧のときの絶縁抵抗しか書かれていないのです。

これでは、電力会社が好き勝手やって、消費者に多大な迷惑g(ry

そこで、「技術基準の解釈」というものがあります。ここで本当に具体的な運用方法や数値を決めているのです。
例えば、漏えい電流を1mAに保つこと(解釈14条)などですね。

さらに、「技術基準の解釈」でさえ決めていない高圧での絶縁抵抗に関しては、なんと民間の「高圧受電設備規程」によって決められています
民間ですよ、民間。
国籍法改正案や人権擁護法案で騒いでいた人が見たら、卒倒しそうな内容です。

なぜこういう階層構造をとっているかというのは、すでに説明したとおり「上位のモノは変更が難しいから」です。もし、技術基準の解釈で安全だとされていた数値で事故が発生したとか、もっといい測定方法が開発されたとか、そういったことがあったときに、いちいち国会で法律を審議するよりも、省令や訓令で対応するほうがより現実的でしょう。これはあくまで運用面での話ですから。

正直、国籍法の改正でDNA鑑定を法律に書けと言う人は、このような日本の法体系を全く理解していないとしか思えないのです。
DNA鑑定とはあくまで運用の問題であり、DNA鑑定自体にもやり方は複数あるわけで、さらに今後より早く確実な親子判定法が見つかることもありますので、法律として決めるとしても決めようがないのです。

法の下の平等という観点からDNA鑑定をこの改正案に盛り込むことが不可能なように、法体系から見ても、DNA鑑定を「法律」に入れるのは不適切であることがわかります。


また、やえさんのところでもDNA鑑定が法体系上不適切であることが指摘されていますのでご紹介。

国籍法改正についての考え方


 つまり、今のままの国籍法改正法案でも問題はないと言っている人でも、偽装を許そうなんて思っている人はひとりもいないというコトです。
 この法案は別に偽装が許されるようになるという法案では決してありません。
 どこをどう読んでも、偽装はダメとしか解釈できません。
 偽装は悪で、許してはならない犯罪であるというのは、どんな立場であったとしても当然の話です。

 となれば、結局この問題というのは、手段の問題です。
 偽装は許されないというのは当然の話なのですから、ではいかに偽装をさせないかという問題こそが本来の論点であるワケで、よってDNA鑑定を法に盛り込めという主張は、目的ではなく手段の問題を指し示していると言えるワケです。
 変な話、DNA鑑定をしても偽装できてしまったら、本来の「法で想定していない人間に対する国籍の付与を防ぐ」という大目的からは逸脱してしまうコトになるので、よってDNA鑑定そのものが目的ではないと言えるワケです。
 DNA鑑定を行うようにすればそれでちゃんちゃんなのではなく、DNA鑑定そのものが目的ではないというコトを忘れてはいけません。
 
 このDNA鑑定をするしないという問題は、運用の問題です。
 そもそも今回の国籍法改正の本義は、今まで国籍を与えていなかった人に対して条件が整えば与えましょうというところでありますので、偽装を見抜くかどうかという問題は手続き上の手法の問題なのですから、やはりこれは運用の問題であって、つまり行政の問題です。
 行政手続きの中で役所は、悪意を持ってこの制度を悪用しようとする偽装に対して、それを見破るよう努力する義務があります。
 というか、こんなのは国籍法に限らず、当たり前の話ですよね。
 ですからやえは、行政の段階において偽装を極力無くそうとする目的をもってDNA鑑定をするというコトには全く反対ではありません。
 予算や他にも様々な問題があろうかと思いますが、それらをクリアした上でDNA鑑定をするコト自体には、やえは全く問題はないと思っています。

 しかしそれを立法行為の中に求めるのが妥当なのかどうかというところが、やえはちょっと疑問なのです。
 これは日本の法律の体系のお話になるのですが、DNA鑑定を法律に記載するコトは、あまり法律というモノにはそぐわないのではないかと思うからです。

(中略)

 国籍法の話に戻しますが、もしDNA鑑定が必要であるとした場合であっても、それは行政が行う運用の問題であり、すなわちそれは行政の、もっと言うと役人を縛る規則であると言えるでしょう。
 であるならば、これは改正手続きがめんどくさい法律で縛る必要はあまりなく、省令や規則、もっと言うと、厳密には法令ではない訓令でも十分ではないかと思うのです。
 訓令とは省庁等の長、主に大臣とかがその行政機関や職員を対象として業務に関する命令を行うコトで、当然ですが職員はこの訓令に逆らうコトを許されていません。
 ですからもしどうしてもDNA鑑定が偽装防止に必要と結論づけられるなら、この訓令でも十分であると言えるのです
 
 逆に言えば、法律で定めるのは縛りが強すぎるとも言えます。
 もし科学技術が発展して、DNA鑑定より迅速で正確な親子関係を証明する方法が確立されたとしても、法律で規定されていては、絶対にDNA鑑定を行わなければならなくなります。
 これはちょっと本末転倒ですね。
 またDNA鑑定と一言で言っても、かなり簡易なモノから、それなりに時間をかけて正確性を期すモノまで様々あり、DNA鑑定と一言規定すれば安心とは決してならないでしょう。
 となければどうしてももっと細かい規定が必要になるワケで、やはり法律だけにこれを求めてもあまり意味のないコトだと言えるのではないでしょうか。


posted by 久間知毅 at 03:39| 国籍法改正案 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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