2010年05月07日

国籍法改正の何が問題か?/賛成・反対運動をする前の基礎知識(2008年11月)

以下のリンク先は、2008年11月18日に、本館『自由帳で数学とか物理とか』およびニコニコ動画にアップされたものです。

 
国籍法改正の何が問題か?/賛成・反対運動をする前の基礎知識

組曲「微分積分」等をご覧いただいている方はお久しぶりです。そうでない方は始めまして。久間知毅です。
この動画は、国籍法改正案を簡単に解説し、現状の問題を把握することを目的としています。
よって、これから賛成運動、反対運動をしたい方や、そもそも「国籍法改正って何?」という方を対象としています。

さて、まずはどうして国籍法が改正されることになったのかという点から。


どうして国籍法改正の話が出てきたのか?

国籍とは,人が特定の国の構成員であるための資格をいいます。国家の三要素が「領域・主権・国民」であることから、「国民」であることを示す「国籍」はどの国にもあります。
ただし、国籍をどのようにして決めるかはその国それぞれの事情に合わせる必要があり、日本においては『国籍法』という法律でそれを定めています。
現在の国籍法については、法務省が『国籍Q&A(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji78.html)』というページを作ってくれているので、そちら参照とします。
簡単に国籍法に何が書いてあるかをご紹介しますと、『日本国籍の取得及び喪失の原因』です。どうすれば日本国籍がもらえるか、なくなるかという法律ですね。
しかし、この「どうすれば日本国籍がもらえるか」というところに引っかかる事態が発生しました。
それは、国籍法が「未婚の日本人父とフィリピン人母との間に生まれ、出生後に父から認知を受けた子供」に日本国籍を与えられない事態のことで、平成20年6月4日、最高裁判所はこの国籍法の決まりを『違憲(憲法に反している)』と判断しました。
この判決はニュースや新聞等で大々的に報じられましたので、皆さんも記憶にあると思います。
最高裁判所が国籍法を違憲だとしたのは、子供に国籍を与える条件を示した「国籍法第3条第1項」が平等でないからだそうです。どうして平等ではないのかというのは、「母親が外国人で、かつ両親の婚姻関係がないときで、かつ生後に認知されたとき」だけ日本国籍が与えられないからということがあるからです。「認知」というのは、「この子は私の子ですよ」と法的に宣言することで、親が果たすべき責任をすべて引き受けるという覚悟の元でなされるものです。
日本人同士や、胎児のときに認知した場合、どんなパターンでも日本国籍は与えられます。
では、どちらかが外国人で、生後に認知した場合、どのような違いがあるのか表にまとめます。
20081118002827.gif
このように、「父親が日本人(母親が外国人)」「両親が結婚していない」「生後に認知」というときだけ、日本国籍が与えられなかったのです。他のパターンでは全て与えられることを考えると、これは平等とはいえないとなります。よって、国籍法第3条第1項は違憲とされました。

この最高裁判決を受けた政府としては、違憲である法律を放っておけません。子供に対する人権問題もありますし、違憲なのに法律にあるという異常事態によって役所の仕事がストップしている(同様の申請はすべて保留状態にある)問題もあります。
そこで自民党は6月11日に法務部会国籍問題プロジェクトチームを開催し、これまで4ヶ月間議論してきました。そして、法務省が法案を作り、国籍問題に関するプロジェクトチームが了承。その案が閣議決定され、今国会に提出。法律になろうとしているというわけです。
今回の改正では、両親の婚姻条件を撤廃し、「日本人の子供なら日本国籍を与えよう」という風に書き換えるというものになる予定となります。
これが、国籍法改正の話が出てきた背景です。
では、次にこれに対する反対意見を見ていこうと思います。


国籍法改正の何が問題か?

国籍法の改正案について、いくつかの疑問点が出されています。
まず、「虚偽の生後認知がされるのではないか」という点。
これは、「両親が外国人であるにもかかわらず、日本人を金で釣ったりして認知させ、子供に日本国籍を取得させようとする不届き者が出る」という心配です。
よって、DNA鑑定をして親子関係を明確にすべきとか、偽装発覚時の罰則を強化せよとの主張とのことですが……これは現行法を知らないことによる誤解かと思われます。
現行法(現在の国籍法)では、母親が日本人の場合の生後認知でもDNA鑑定は行われていませんし、胎児での認知でも同様です。
また、罰則についてですが、現行法には仮装認知(偽装認知)への罰則はないことから、この改正で罰則が新設されることにより、むしろ強化になることで説明がつきます。(というかそもそも偽造なので、すでに刑法第157条の公正証書原本不実記載等の罪に問えますが。こちらは5年以下の懲役または50万円以下の罰金です。改正案が通れば、刑法第47条の加重規定により、改正後は6年以下の懲役または60万円以下70万円以下の罰金です)
よって、偽装認知によって日本国籍のたたき売りが行われるのならば、すでにそういう世の中になっていなければ説明がつかないのであり、現状がそうでないことと照らし合わせても杞憂であると思われます。
法律は憲法に違反できないので、法の下の平等(憲法14条)により、この改正案にある内容でDNA鑑定を条件とした場合、すべてのパターン……日本人同士の子供でさえDNA鑑定で親子関係を証明せねばならなくなります。いくらなんでもそれは無茶苦茶です。
どうしてこういう考えになるかと言いますと、「認知」というものを甘く見ている人が多いからでしょう。
「認知」というのは、「この子の親は私です」と法的に宣言することで、親の果たすべき責任や義務を全て引き受けることになりますし、養子縁組や結婚のように、解消することもできません。それっぽい用語を使うなら、相続権付与や養育義務が課されるというところでしょうか。
また、運用上では国籍取得届の段階で認知の真実性が審査され、認知をした男性の渡航歴を調べ上げたり、父母別々に知り合った経緯や交際の状況を聴取されたりするので、実際偽装認知が可能かといわれると、首をひねらざるを得ません。
それに、偽装認知なんかするくらいならば、偽装結婚や偽装養子縁組した方が遥かにリスクが少なく日本国籍を取得できます。
偽装をしてまで日本国籍を取得したい不届き者が、何年もずっと暮らした証拠を出したり、出生証明書を提出したりする必要がある上に解消できない偽装認知と、適法に日本に住んでいるだけで可能であり、用がなくなれば解消できる偽装結婚や偽装養子縁組のどちらを選ぶかは明白です。

以上により、この疑問は的外れとしかいえません。この改正はあくまで「父親が日本人で生後認知した婚外子へ日本国籍を与える」ためだけに行われるものであり、この改正のせいで偽装認知が増えるという根拠はありません。
同じ手段での偽装認知は現行法上十分可能で、さらに今の国籍法には罰則の規定はありません(刑法には罰則がある)。罰則で見れば、改正案の方が厳しいくらいです。

また、「認知による扶養の義務は国籍法改正案に書かれていないのでダメだ」という人もいますが、そもそも扶養義務が書かれているのは民法第877条なので、国籍法とは無関係です。よって、国籍法が改正されようが民法はそのままなので、扶養義務は発生します。

次に、「日本以外の国のアイデンティティを持っている人間が簡単な方法で日本人になれるのが問題」という人もいるようですが、今回の改正案では「日本へのアイデンティティを持っているにも関わらず日本人どころかどの国の国民にもなれなかった人」と「違憲なのに法律にあるから身動きが取れない行政」への救済なので、全くの的外れです。

「二重国籍を認めるのは問題」という人もいます。しかし、二重国籍が絡む問題はこの法案の中には書いていません。おそらく、法務部会国籍問題プロジェクトチーム座長の河野太郎議員が『個人的』に考えている案と混ざっているものと推察します。
確かに河野議員は取りまとめた本人ですが、法案を作ったのは法務省です。
「二重国籍を認めて偽装認知がはびこる河野私案は亡国の法案」などという人は、全く現状認識が出来ていないとしか思えません。

「報道されていない」「自分が知らない」から問題だという人もいますね。
ですが、これは6月に違憲判決が出たとき、大々的に報じられていますし、違憲判決が出たなら法律が変わるのは当然(憲法の最高法規制による)です。新聞などのメディアでも十分報道されていますし、衆知されているといっていいでしょう。さすがに、ここまで来て知らないのは、本人の怠慢でしかありません。(大多数の日本国民にとっては大して重要な改正案でもないので、政府主導で地上デジタル放送の周知徹底並みにする必要性はありませんので、あしからず)
あくまで法改正は、違憲判決の事後処理でしかないのです。

あと、なにやら「アニメ・ネット・ゲームが危ない」とか「日本が滅ぶ」などとヒステリックに煽っている方もいらっしゃるようですが、私から言わせて見れば『一体、何の因果関係があるの?』です。
人権擁護法案のときもそうですが、たいして問題のない法案に対して、他の法律との兼ね合いや現在の運用方法、法律としての読み方を全てかなぐり捨てて『問題点』とやらを捏造し、無関係な人を巻き込むのは、やめにしませんかね。

……と、大抵の疑問点や反対論は的外れなものが多く、しっかりとした反対意見が埋もれているように感じます。

なお、現在出されている反対意見は、「非準正子には簡易帰化により国籍を取得させればいい」というものです。ですが、これに対する反論もされており、「帰化は法務大臣の裁量行為だから、準正子と非準正子は区別されている」というものです。

私としては、どちらがいいとは言いませんので、視聴者の方がどちらの立場をとっても構わないと思いますが、少なくとも現状がどういうものかの認識をせずに賛成反対の立場を決めるのはよろしくないように感じます。

以上で国籍法改正問題の解説を終わりたいと思います。これまで見てくださり、ありがとうございました。


【追記】mixiで言われたことに対する自分の返答。

偽装については現状と危険性は全く変わらないのですから、偽装が問題だというのであれば、この改正案に反対する理由はなくなりますよ?
偽装認知が問題ならば、民法の改正に行き着くはずなのですがね。
きちんと何が原因で、何を根拠として、その事象が起こっているか把握しない限り、問題の本質は見えてきません。そんな中反対運動したところで、騒いでいる人の問題は全く解決しません


posted by 久間知毅 at 03:20| 国籍法改正案 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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